たとえば明日とか

たとえば明日とか死ぬ

ドブ色の鳥といつか死ぬ

死にたいという男から電話がきた

一緒に死んでくれんの?と言われたのでいつでもいいですよと返すと、やっぱり結婚しようと言われた。それにもいいですよと返事をした

本当に良かったからいいですよと言ったのだ

もう今日を生きて明日死んでも今日結婚して明日離婚しても何も変われないだろう

そのあと好きな人に2回目の告白をした

やっぱり好きです、気が向いたら付き合ってくださいとポップに言っておいた

彼はそんなに?と笑ってわかったよと言った

この人と付き合っても絶対不幸になる

片思いでも両思いでもこんなに幸せになれないとわかっている恋愛は初めてだと思った

全てどうでもよかった

死ぬ直前まで死にたいままなんだろうと思う

明るくなった駅に着いてタクシーを待っていると、後ろでずっと舌打ちの音がしていた。うるさいなあと思ってしばらく見ていたら気まずそうに下を向いて舌打ちをやめた。醜い男だった。

やっときたタクシーに乗って広い道路に出ると、先週そこで轢かれて死んでいた鳥を拾って埋めたことを思い出した。

轢かれっぱなしではさすがに鳥も悲しいだろう、となんとなく埋めただけだ。立派な偽善者だなと思った

あの花壇に二度踏み潰された、ドブみたいな色をした小さい鳥が埋まっていることを知っているのはこの世でわたしだけだ。

生き物は誰かの記憶から消えた時にもう一度死ぬと言う。わたしが死んだらあの鳥ももう一度死ぬんだろうか。

男からは死にたいというメッセージが届き続けているし、わたしの人差し指はこうしてなんの意味もない文章を生産し続けている

好きな人はきっと今も苦しそうな顔で消毒液みたいな味の酒を飲んでは吐いているしドブ色の小鳥は着々と骨になっていく

死ぬ瞬間に思い出すのはあの鳥を思い出す人がもうこの世からいなくなるということだけならいいなと思う