葬式が終わった
前日は3時に布団に入って祖父のことを考えた
そういえば最後に会話したのはじゃあまたね、ありがとうだったと思い出して少しだけ泣いた
またねになれなくてごめんね何にもありがとうじゃないよ
10時に起きて喪服を着た
一生着たくなかった
望んでもいないのに真っ青ないい天気で腹が立った
祖父には信仰していた宗教もなく、希望もなかったのでお経を聞くこともなく火葬前に家で棺桶に花や手紙を入れた
みんな最後だからと手や頰に触れていたけど、いつかもっと近しい人も同じように冷たくなるのだと思い知るのが怖くてわたしは触れられなかった
わたしだけがこどもだった
やっぱり涙だけ勝手に出たけど棺の上蓋を閉めるときでさえ本当に最後なんだとは思えなくて悲しくはなれなかった
火葬される直前、最後だと言われて小さい子を抱き上げて祖父の顔を見せたけどわたしはもう見られなかった
最後になってしまうなんて嫌だった
2時間弱かかるという火葬の間、祖父はどこにいるのだろうと考えた
いつもお正月に集まる親族の、彼氏がどうとか子供の高校がどうとかそういういつもの会話を、祖父は聞いていたんだろうか
天国も地獄も幽霊も生きている人のためだけにあって死んだ人はもうなにも見えないしもうどこにも存在していないのだろうか
骨は当然、祖父の面影なんて残していなかった
白くて脆くてこんなものがあの弱った体を支えていたのかと思った
帰りは綺麗な夕焼けだった
痴呆気味の祖母は何度も、おとうさんがこんなに綺麗な夕焼け見せてくれたんだねと繰り返した
その度に何度もそうだねと答えてどんどん暗くなっていく空を見ていた
天国も地獄もないかもしれないけど、祖父がどこかでむかし死んだ犬と散歩でもしていたらいい
棺桶に忍ばすことができなかった手紙の代わりに今は書く
悲しいとかさみしいとかまだ思えない