たとえば明日とか

たとえば明日とか死ぬ

あの子の匂いさよならの匂い

うまれてはじめて香水を変えたんだよ

うまれてはじめてとはまあまあかなり語弊があるんだけれども、18歳からずっと同じ香水を使っていた。ブランドも、値段も、匂いも、18歳にしてはちょっと大人すぎて、21歳から22歳になる今にちょうどぴったりなものだったと思う。

でも、ぴったりだけど、もうわたしはその匂いでいたくなかった

18歳のわたしが何件もお店を回って探した1番大好きな匂いだったし、毎日毎日、デートの日もセックスの日もお別れだろうという日も、結婚した日も、それから、礼儀知らずだとは知りつつお葬式の日だって、つけた。

久しぶりにあった人が安心してしまうくらいに、匂いはわたしだった。

だから変えた

匂いはわたしだったけど、それと同時にかとうまなでハプニングバーで働くきいちゃんで、(とても向いていないのに)飲み屋で働く真空ちゃんで、セフレがたくさんいて、オーバードーズを繰り返す、いつも顔色の悪い、死にそうな人だった

だけどわたしはもう、かとうまなでも真空ザーメンパックでも、たった1年かそれくらい前の誰かが知っている「あの子」でもなく、手首に1本、二の腕に3本、太ももに1本線のある人として、それから、妻として、そしていつか母親として生きていくと決めたのだ。

数えきれない瞬間、たとえば、一生続くような神経の名前を聞いた時や、およそ2年ぶりに会った母親と野菜ジュースを飲んだ時、父が砕いたカシューナッツを食べた時、半分眠りながら夫の感触を確かめた時、猫の額を撫でた時、祖父がわたしの名前を間違えた時、そういう瞬間にわたしは私だけであろうと思った

だからもう私は誰かを、自分自身ですら安心させることもない匂いをさせていきる

ほとんどなくなりかけていた「あの子」の香水は最後に一瞬だけ香ったけど、一生行くことのないコンビニのゴミ箱に捨てた

さよならの匂いだったと思った