長いゆめをみた
催眠剤は眠りをくれるけど代わりに奇妙な夢をおいていく
空を飛ぶとか、魔法が使えるとか、友達と会うとか、まあなんでもいいがとにかく楽しい夢をしばらく見ていない。
大体セフレだった人とか、前に付き合っていた人とか、そういう人たちに会う夢を見る
好きだった人の夢が1番多い。
すこしだけむなしい。好きだった人は夢の中で最後にあったままの姿でいる。あのころ終わりがはじまるときに言ったことを繰り返し言う。「結婚しないで」
あの人が3年前にわたしに言った。それから、わたしがあの人に少し前の電話で言った。
わたしはすでに結婚しているし、好きだった人も最近婚約した。
いちばん悲しくてむなしいのは、それが睡眠剤がくれる悪夢だということだ。
昨日の夢はやけに現実味があった
わたしたちはしあわせだった少しの期間によく行った公園のベンチにいた。「僕も結婚するからもう最後にしよう」好きだった人はそう言ってわたしの手を握った。わたしはどうやら不倫しているようだった。泣きもせず、すがったりもせず、ただ手を繋いで歩いた。見慣れた酒屋や黄色いブランコが揺れていた。もう今はない白い縁取りがされたベッドでセックスをした。わたしはやっと泣いていた。また手を繋いで歩いて、酒屋のある角でわかれた。
5時36分に起きた。わかれるとき、好きだった人がどういう顔をしていたか、思い出せなかった。夢だとわかっていたから悲しかった。
その人を思うと夢を見るというのと、その人に思われると夢に出てくるというのはどちらが本当なのだろうか。たぶん前者だろう
だから余計にむなしくて悲しいのだ。好きだった人はたぶんもうわたしの夢なんて見ない。わたしだけがこうしてずっとその人の夢をみる。
夢は一方的で、わがままで、あの頃のわたしにそっくりだ。過去形にするのが苦手な、歪んだ顔をしたわたしにそっくりだ。
そういう夢をみたあとは反射的に二の腕に触れる。あの頃とは違う、等間隔の2本の線に安心する。好きだった人の知らない、わたしの線。汚い線。薄いピンクの、線。隣の夫。